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【異世界迷ヰ犬】“死にたがりなふたり”による奇跡の対談 第4回

現在放送中、心中文豪の“アンチ異世界冒険譚”を描いたアニメ『異世界失格』とのコラボ企画、『【異世界迷ヰ犬】』。
『文豪ストレイドッグス』の太宰治と『異世界失格』の主人公・センセー、“死にたがりなふたり”による奇跡の対談が実現!全4回に渡りお届けしたふたりの対談も、今回が最終回となります。

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知れば知るほど各々の生きる〝異〟な世界に興味を惹かれ、互いに言葉にならない共通項をも感じたセンセーと太宰の対談は熱気を帯びていく。だが、奇跡の饗宴はここまで。最後に、二人が交わし合う思いは……?

―盛り上がってきたところ大変心苦しいのですが、お開きの時間が近づいてきました。ここまでお話されてみていかがですか?

太宰:ふむ。御婦人方との出会いもあるし、自殺に挑戦できる機会も多そうだし、異世界とやらもそんなに悪いものではないのではないかと思ったけどね。

センセー:実は先日、異世界でついに僕の感性を刺激する男と出会ってね。スズキ君というんだが、彼のおかげでこちらの世界で初めて作品が書けたんだよ。

太宰:それはめでたい話じゃあないか。

センセー:ああ。ただ、彼が連れていた犬だけはいただけなかった。たしか、ストレイウルフとか呼ばれていたかな。

太宰:犬! 私も犬が好きではないよ。犬はしつけられるべき。まったくもってそのとおりだと思うね。

センセー:でも結局のところ、ついに完成したスズキ君の物語は、まだ傑作と呼べる代物ではないことに気づいてしまってね。その作品を破り捨てた刹那、スズキ君自身も光に包まれ、どこかへいなくなってしまったんだ……残念だったよ。

太宰:光に? 最初に「特別な力がない」という話をしていたけど、もしかしてそれがセンセーの「異能力」なのでは?

センセー:知らんよ。ただ、イーシャ君も何か言っていたな。「元にいた世界に送り還した」だの何だの……だが、僕はただ執筆していただけだ。なぜ、そのようなことになったのかはわからないし、興味もないね。

太宰:元にいた世界に送り還した、か。ふぅん。その力が今後センセーにどう影響するのか、楽しみだね。

センセー:スズキ君の物語は、こちらの世界での処女作としてはまずまずの出来だったはずだよ。次こそは傑作を書くつもりさ、あの賞を取れるくらいのね……ふふ。

太宰:ねえねえ、その物語に題名はつけた?

センセー:勇者失格……いや、「異世界失格」とね。

太宰:実にそそられるタイトルだ!

センセー:まあ、書き手である僕こそが失格者の烙印を押された人間だがね。生きていること全てが恥と言っても過言ではないくらいだ。

太宰:お互い、恥の多い人生を送ってきたものだねぇ。私も、喫茶店の女給を口説いてもなかなか靡いてくれなくてね。

センセー:……ふふ。それは僕の感性を刺激するほどの恥ではないかな。

太宰:それ以上聞きたいの? 女給を口説いて、心中の約束を結んだと思ったら生命保険に入らされそうになっていたんだよ。

センセー:素晴らしい。実に人間味溢れる話じゃないか。

太宰:でしょう? まったく女性というのものはしたたかでたくましい。だからきっと、センセーの愛するさっちゃんもどこかで生きてると思うよ。

センセー:……あぁ。そうだね。僕らは必ず再会できる。運命の糸で結ばれているからね。

―今日はありがとうございました。お二人の親交が深まったようで、何よりです。

センセー:君の話を聞いてとても他人とは思えなかったよ。君をモデルにした物語を書いてもいいかな?

太宰:もちろんだとも、格好良く書いてくれ給え!

一問一答

●座右の銘は?
センセー:「生きててすみません」
太宰:「清く明るく元気な自殺」

●旅をするときに必ず持っていくものは?
センセー:眠剤。
太宰:面倒なので旅に出ない。

●お互いの世界に転移したら何をしてみたい?
センセー:「黒獣」とやらに噛み殺されて死ぬのも悪くないね。
太宰:異世界には私と心中してくれる美女はいるのだろうか。探してみたいね。

●レベルアップしたい自分の能力は?
センセー:「決して生き残らない能力」かな。
太宰:うふふ。すでにレベルはカンストしてるから、私。

●世界最後の日、何を食べたい?
センセー:眠剤だね。そこへ、あの雪のようにきらきらした白い粉をまぶすのもいい。
太宰:それは記念すべき日だ。乾杯しよう。

●もし世界を征服したら最初にすることは?
センセー:心中。
太宰:世界を征服することに意味を感じないなぁ。

●最近見た夢は?
センセー:さっちゃん。
太宰:虹色のゾウリムシが黄泉平坂で蠢いていた。あれ?夢じゃなくて山に生えていた木ノ子を食べたら見た幻覚だったっけ?

●願いが一つだけ叶うなら何を願う?
センセー:愛する人と心中すること。
太宰:自分の事で何かを願ったりはしないかな。



アニメ『異世界失格』公式サイト

https://isekaishikkaku.com/

隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。

いくばくもなく官を退いた後は、故山、虢略に帰臥し、人と交を絶って、ひたすら詩作に耽った。

下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺そうとしたのである。

しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に駆られて来た。

この頃からその容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに炯々として、曾て進士に登第した頃の豊頬の美少年の俤は、何処に求めようもない。

数年の後、貧窮に堪えず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。一方、これは、己の詩業に半ば絶望したためでもある。

曾ての同輩は既に遥か高位に進み、彼が昔、鈍物として歯牙にもかけなかったその連中の下命を拝さねばならぬことが、往年の儁才李徴の自尊心を如何に傷けたかは、想像に難くない。

彼は怏々として楽しまず、狂悖の性は愈々抑え難くなった。一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿った時、遂に発狂した。

或夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駈出した。

彼は二度と戻って来なかった。附近の山野を捜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなったかを知る者は、誰もなかった。

翌年、監察御史、陳郡の袁傪という者、勅命を奉じて嶺南に使し、途に商於の地に宿った。

次の朝未だ暗い中に出発しようとしたところ、駅吏が言うことに、これから先の道に人喰虎が出る故、旅人は白昼でなければ、通れない。

今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでしょうと。袁傪は、しかし、供廻りの多勢なのを恃み、駅吏の言葉を斥けて、出発した。

残月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、果して一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。

虎は、あわや袁傪に躍りかかるかと見えたが、忽ち身を飜して、元の叢に隠れた。

叢の中から人間の声で「あぶないところだった」と繰返し呟くのが聞えた。

その声に袁傪は聞き憶えがあった。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ。

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」袁傪は李徴と同年に進士の第に登り、友人の少かった李徴にとっては、最も親しい友であった。

温和な袁傪の性格が、峻峭な李徴の性情と衝突しなかったためであろう。

叢の中からは、暫く返辞が無かった。しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。

ややあって、低い声が答えた。「如何にも自分は隴西の李徴である」と。

袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懐かしげに久闊を叙した。

そして、何故叢から出て来ないのかと問うた。李徴の声が答えて言う。自分は今や異類の身となっている。

どうして、おめおめと故人の前にあさましい姿をさらせようか。

かつ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決っているからだ。

しかし、今、図らずも故人に遇うことを得て、愧赧の念をも忘れる程に懐かしい。

どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜悪な今の外形を厭わず、曾て君の友李徴であったこの自分と話を交してくれないだろうか。

後で考えれば不思議だったが、その時、袁傪は、この超自然の怪異を、実に素直に受容れて、少しも怪もうとしなかった。

彼は部下に命じて行列の進行を停め、自分は叢の傍に立って、見えざる声と対談した。

都の噂、旧友の消息、袁傪が現在の地位、それに対する李徴の祝辞。