現在放送中、心中文豪の“アンチ異世界冒険譚”を描いたアニメ『異世界失格』とのコラボ企画、『【異世界迷ヰ犬】』。
『文豪ストレイドッグス』の太宰治と『異世界失格』の主人公・センセー、“死にたがりなふたり”による奇跡の対談が実現!毎週更新、全4回に渡りお届けします。
異世界を旅する作家のセンセーと、愛する街を守る探偵の太宰治。黒い蓬髪の痩身、どこか風貌に似たものがありながら、決して交わるはずのない男たちであったが、不思議な縁に導かれて対談の席へ着く。二人は、互いをいぶかしみながら、はじめこそ、のらりくらりと受け答えするのだが――?
―おふたりは初めて対面されると思うので、名前、年齢、住まいといった簡単な自己紹介からお願いします。
センセー:
人は僕をセンセーと呼ぶよ。職業は作家、それ以上でも以下でもない。年齢? 居住地? それについて語る必要はあるまい。今は不可思議な世界を旅しているところさ。
太宰:
やぁどうも。それでは、私もセンセーと呼ばせてもらおうかな。私は太宰、太宰治だ。呼び方はセンセーのお好きにどうぞ。職業は……何に見える? ふふ、こう見えてヨコハマで探偵をやっていてね。君の年齢や居住地を当ててみようか?
―えっ、私ですか!?
太宰:
なんてね、冗談だよ。安心してくれ給え、探偵社は無辜の民を脅かすようなことはしないよ。
―こうして対談することになってのお気持ちはいかがですか?
センセー:
……ふふ。死にたい。
太宰:
奇遇だね。ちょうど私も死にたいと思っていたところだ。
―あの、それはちょっと……。
太宰:
おやおや、インタビュアーくんがお困りだ。
センセー:
知らんよ。僕はただアネットくんにここに連れてこられただけなんだから。
太宰:
私は、この対談の企画書を読ませてもらって、センセーに何か他人とは思えないものを感じたからこうして会いに来たというわけさ。楽しみだよ。
センセー:
職業は探偵をしていると言ったね? 探偵という職も興味深いが、僕は前職が不明という点に引っ掛かりを覚えたよ。ぜひ、詳しく聞かせてくれないかな。
太宰:
私の前職ねぇ……実はこれを当てられた人は誰も居ない。もし当てられたら、膨れ上がった賞金を献上するけれど、センセーも私の前職当てゲーム、やってみるかい?
―実際に会ってみて、お互いの第一印象は?
太宰:
その黒い外套はとてもすてきだ。さながら死神だね。
センセー:
……ふふ。頭が痛い。すまないが僕に構わないでくれないか。
太宰:
……うふふ。
―雲行きが怪しくなってきたので、ここは楽しく、お互いの共通項を探っていきませんか? 好物を教えてください。
センセー:
好物か。僕が絶対確信を持てるのは、あの雪のようにきらきらした白い粉だけだよ。
太宰:
ああ、あれは何にかけても好い。
センセー:
おや、君も好きかね。筋子にかけると最高だよ。
太宰:
筋子か、今度試させていただくよ。私は蟹も好きだけど、探偵社の給料ではカニ缶で腹を満たすのが関の山だね。
―次は趣味をきかせてください。
センセー:
あえて言うならば、ありったけの眠剤を頬張ることかな。
太宰:
一気に錠剤を頬張ったら、薬が効く前に喉に痞えてしまいそうだね。その死に方はとても苦しそうだ。私は痛いのも苦しいのも嫌だなぁ。センセーはもしかして、苦しかったり痛かったりしても良い人なのかな?
センセー:
そうだね。苦しみも痛みも、僕にとっては死に至る悦びの一部と言えるかもしれない。ところで先ほどから、君が手にしているその「完全自殺読本」が気になって仕方ないのだが……。
太宰:
おや、お目が高い。気になっているならお貸ししようか?
センセー:
いいのかい!?
太宰:
私はこの本の内容をもう覚えてしまっているから、数日貸すくらい構わないよ。好い本は何度読み返しても好い。センセーの感想を是非聞かせてもらいたいな……と言っているあいだに、読み始めてしまった。
センセー:
ふむ……なるほどこんな方法が……。
太宰:
そうそう、それがね……。
センセー:
素晴らしい! まだこの世には、これほどの可能性があったとは……。
―意気投合されて何よりですが、戻ってきてください。太宰さんがそんなに包帯まみれなのも、そうして自殺を試されているからなのでしょうか?
太宰:
私の事が気になるのかな? いいとも教えよう。なんとこの包帯はお洒落なのだよ。若者の間で流行っている装飾なのさ。其れなのにうちの探偵社の国木田君は包帯無駄遣い装置だなんて云うんだよ。彼は頭が固くていけないね。……まぁ、この包帯がお洒落と云うのは嘘なのだけれど。
センセー:
嘘なのか。ほう、嘘ねぇ……。
太宰:
うふふ、本当のことはわからないほうが面白いさ。しかし、センセーの腕に巻かれた赤い糸もすてきじゃないか。
センセー:
これは僕の宝物だよ。想い人と入水しようとしたときに、彼女がつけてくれたものでね。
太宰:
……成程。それは大事にしないといけないね。
―入水といえば、太宰さんもそれがきっかけとなって大きな事件を解決されたことがあるそうですね。
太宰:
大きな事件……ああ、敦君を探偵社に勧誘したときの話かな? 鶴見川で入水を試みたんだけど、孤児に援けられてね。その子が偶々区の災害指定猛獣の虎に変身する異能力の持ち主だったものだから、我々武装探偵社が保護したという話さ。敦君がいなかったら入水成功していたかもしれないと思うと残念だ。それにしても、センセーは想い人との入水に成功したと聞いたけれど……成功したのに此処に居るのは不思議な事だね。
―センセーの心中相手はどんな方だったんですか?
センセー:
さっちゃんは、僕の全てさ。まったく、あのトラックさえ邪魔してこなければ……僕らは……。
太宰:
ええと……トラック? 入水ではなく?
センセー:
当初の予定とは異なったが、ふたりで一緒に逝けるとは思ったよ。
太宰:
つまりセンセーは入水しようとしてトラックに轢かれ、それなのに死ねずに此処に居るという事か。なんというかご愁傷様だね。
―そのトラックについて詳しく教えてください。
センセー:
知らんよ。アネットくんは「異世界当選トラック」とか言っていたかな。どうやらそれに轢かれると、問答無用で異世界とやらに転移させられるらしい。
太宰:
それは……、当たりなのかな?
センセー:
僕がこの世で大層不幸だったと勝手に決めつけて、特別な力を与えたうえに、異世界を救う勇者とやらに仕立て上げようという何ともありがた迷惑な話だよ。
太宰:
恐ろしい! 自殺が成功したと思ったらもう一回人生が始まるだなんて!
センセー:
しかも、どうやら僕にはその特別な力がなかったらしい。まあ異世界でも失格の烙印を押される、それこそ、僕にふさわしい第二の人生なのかもしれんがね。
―異世界で最初に見たものは何でしたか?
センセー:
聖堂の天井画だね。七人の天使が描かれていたよ。ずいぶん西洋趣味なあの世だと思っていたら、きれいな形の耳をしたお嬢さんに興ざめな話をされたというわけさ。
太宰:
なるほど。それが、さっきからセンセーが口にしているアネットという女性だね。頼んだら私と心中してくれそうかな?
センセー:
……ふふ。さあ、どうだろうね。
―それで、どうされたんですか?
センセー:
どうもこうも、僕がやることは一つだよ。死に場所を探しに外へ出た。そうしたらちょうどいい塩梅の枝を持った木の怪物が現れたから、今度こそ首をくくって死ねると思ったんだ。でも……。
太宰:
また死ねなかったのかい?
センセー:
ああ。それどころか猫耳の少女の命の恩人になってしまったようでね……。
太宰:
猫耳の少女か、また予想もできない展開だ。
センセー:
ただ、その娘が気づかせてくれたんだよ。僕の運命の女性――さっちゃんもきっと同じ世界にいるであろうことを。彼女を見つけて、今度こそ心中せねば……。
太宰:
センセーが転生した世界もなかなか面白そうじゃないか。俄然興味がわいてきたよ。ここから先は私がセンセーに質問しても構わないかな?
次週へ続く