現在放送中、心中文豪の“アンチ異世界冒険譚”を描いたアニメ『異世界失格』とのコラボ企画、『【異世界迷ヰ犬】』。
『文豪ストレイドッグス』の太宰治と『異世界失格』の主人公・センセー、“死にたがりなふたり”による奇跡の対談が実現!毎週更新、全4回に渡りお届けします。
前回、導かれるがままに初対面を果たしたセンセーと太宰治。センセーが転移したという世界に興味を抱いた太宰は、自らがインタビュアーとなって、さらに深く話を聞こうとするのだった――。
太宰:
センセーの話を聞いて、異世界とやらに興味が湧いてきた。ここからは、私が質問をさせてもらうよ。まずはそうだな……センセーの名前は、やはり教えてもらえないのかな?
センセー:
……ふふ。それを知って何になるのかね。
太宰:
つれないなぁ。まぁ、センセーと呼べばいいだけだけれど。……それでセンセーは「センセー」と呼ばれていることについては如何思ってるんだい?
センセー:
異世界でも元いた世界でも皆がそう呼ぶだけさ。未だに慣れないがね。
太宰:
慎ましいねぇ。それで、職業は作家だそうだけど、作家とは何をするのか訊かせてほしいな。
センセー:
作家は作家さ、それ以上でも以下でもない。まあ、強いて言うなら……人間を描く仕事かな。
太宰:
人間を描く仕事、ね。
センセー:
ああ。だが、僕の感性を刺激するような者はなかなか現れなくてね……いつか傑作を書いてみたいものだよ。
太宰:
異世界に来てからも執筆は続けているのかい?
センセー:
ロート城下町というところへ連れてこられたのだが、そこは存外興味深い題材が多そうでね……。久しぶりに創作意欲が湧いてきているところだよ。
太宰:
それはなによりだ。異世界には、どんな名物があるんだい?
センセー:
空飛ぶ大トカゲ、動き回る怪木、変わった形の耳をした女性たち。どれも興味深いね。
太宰:
まるで空想の世界だ。それは興味が尽きないだろうね。それじゃあ、一番衝撃を受けたことは?
センセー:
牛がしゃべることだね。
太宰:
我ながら「郷に入っては郷に従え」ができているなと思うことは?
センセー:
牛としゃべることだね。
太宰:
探偵社にも牛と仲の良い子がいるんだけれど、賢治くんなら異世界も違和感なく楽しめそうだ。立て続けに質問して申し訳ないが、センセーのもといた世界にはないような悩ましさもあるかい?
センセー:
……ふふ、そうだね。レベルがアップしただの何だの、僕の頭の中に勝手に直接語りかけてくる女性の声が煩くてかなわん。それに、一国の王ともあろう者が、僕のような突然訪ねてきた旅人に自分の大切な娘の結婚相手を決めさせようとしたこともあったね……。
太宰:
それはそれは……なんと邪智暴虐の王だ。それでは王様失格だね。
センセー:
……まったくその通りだよ。驚いたな。君はあの場にいたのかね……?
太宰:
うふふ、さてどうだろうね。 ところで、異世界での寝食はどうしてるんだい?
センセー:
食べ物はアネットくんが調達してくるが、基本薄味で困る。だが、寝床には満足しているよ。寝心地は、引き役次第といったところだがね。
太宰:
ん? 引き役……ってどういうことだい?
センセー:
道端に転がっていたガラクタの中から見つけたのだが、ちょうど人が一人入る大きさで、それがあれば、昼寝も丑三つ時の闇心地というわけさ。
太宰:
それって、もしや……。
センセー:
ここへ来る際も、アネット君が引いてきてくれたから……ほら、そこに立てかけてあるよ。
太宰:
矢っ張り! 棺桶か! ずっと気になっていたのだよ何で棺桶が立てかけてあるのか! 此れが寝床だなんて……なんて素晴らしい! 実に効率的だ。 それに寝ていたら引いてくれるのかあ。楽そうでいいなあ。もし敦くんが引いてくれたら犬ゾリならぬ虎ゾリだね、ふふ。
センセー:
おすすめするよ。
太宰:
そうだね。前向きに導入を検討するよ。……もといた世界から持っていったものはあるかな?
センセー:
首にかける縄くらい持って行ったら良かっただろうが、なにせ急にこっちに連れてこられたからねぇ。懐に入っていたのは、眠剤、ノートとペン、それから煙草だ。……一寸失礼するよ。
太宰:
かまわないよ。おや、燐寸か。……佳い趣味だ。
センセー:
……ふふ。
太宰:
しかしセンセーは、異世界を救う勇者様にならなくてはいけないんだろう? 勇者と云うくらいだ、倒すべき魔王はいるのかい? 勇者と魔王なんて、まるで異世界の話だね……あ、異世界の話か。
センセー:
僕にとってはどうでもいいことさ。それに、魔王どころではないよ。例の邪知暴虐の王の娘である王女様から、なんと心中を申し込まれてしまったんだからね。
太宰:
心中……? センセーはさっちゃんが全てだって言っていたじゃないか。真逆、その申し出、受けたんじゃあないだろうね?
センセー:
もちろん、さっちゃんが僕の全てさ…… 。それに、結局のところ王女様……いや、シャルロット君は僕の心中相手としては失格だったんだ。
太宰:
へぇ、失格ね。その理由を詳しく知りたいな。
センセー:
彼女は愚かな父親の呪縛を解き、自らの意志に従って、女王となることを決めた。だから僕と心中を共にすることはできなかったというわけさ。立派な女性だろう?もちろん僕も自分がどう生きていくのかを他人に委ねたことなどない。だから、誰が決めたことだか知らないが、異世界で勇者になれだなんてまっぴら御免だね。・・・ふふ。
太宰:
成程、それは全くそのとおりだ。
センセー:
そろそろいいかね。聞かれているばかりではこちらも退屈だ。今度は僕にも質問させてくれないかい。どうも君の言葉には、本心が見えない。さぁ、聞かせたまえ、君自身の物語を……。
次週へ続く