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【異世界迷ヰ犬】“死にたがりなふたり”による奇跡の対談 第3回

現在放送中、心中文豪の“アンチ異世界冒険譚”を描いたアニメ『異世界失格』とのコラボ企画、『【異世界迷ヰ犬】』。
『文豪ストレイドッグス』の太宰治と『異世界失格』の主人公・センセー、“死にたがりなふたり”による奇跡の対談が実現!毎週更新、全4回に渡りお届けします。

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前回、対談の主導を握った太宰治に、あれやこれやと今自分のいる奇妙な世界の話をさせられたセンセー。太宰の口達者ぶりに感心しながらも、そのなかなか見せない心のうちに迫るべく〝取材〟を始める――!

センセー: 君は「作家とは何をする職業か」と聞いたね。僕にも、探偵がどういうことをしているのか教えてくれるかい?

太宰: 私が身を寄せているのは「武装探偵社」といってね、社員の多くは「異能力」を持っていて、軍や警察に頼れないような危険な依頼を専門に解決しているのさ。

センセー: 「武装」とは、ずいぶん物騒だね。

太宰: まぁヨコハマは治安が良いとは云えないかな。それに「探偵は武装されるべき」という社長の理念があってね。巷では、昼の世界と夜の世界の〝あわい〟を取り仕切る「薄暮の武装集団」なんて、実しやかに噂されているらしい。まあ、私はソファでゴロゴロしているのが仕事と云えば仕事だけれど。

センセー: ゴロゴロ……? ……ふふ。どうりで僕の寝床を羨望したわけだ。どうして探偵になったんだい?

太宰: 仕事を探していた時に、ある人の紹介でね。

センセー: ふむ……。危険な仕事を引き受けていると言いながら、ゴロゴロ寝ている……。一体、どんな社風なんだい?

太宰: もともと武装探偵社は、乱歩さんの為の組織だからね。センセーの言葉を借りるなら、それ以上でも以下でもないよ。社風といえるかはわからないけど、乱歩さんの云う事には誰も逆らわないんじゃあないかな。

センセー: 乱歩……。どうも聞き覚えがある名だ。

太宰: 探偵社最強の男だ。ところで、さっきから思っていたんだけれど……センセーの〝声〟は耳馴染みが良い。それもあるのかなぁ、とても初めて会ったとは思えないのは。

センセー: ふふ……そんなこともあるかね。「異能力」とやらも興味深いが、君も持っているということかい?

太宰: 勿論だとも。あらゆる他の異能力を触れただけで無効化する。異能名は「人間失格」だ。

センセー: ほう、なんと・・・ それは実にいい名だね……。他にはどんな異能力があるんだい?

太宰: 多岐にわたるが、例えば……敦くんは白虎に変身したり、同僚の国木田くんは手帳に書いたものを具現化する異能の持ち主だ。元部下の芥川くんは、外套を黒獣に変えるね。

センセー: 芥……あくたがわ!? 元部下だって? 素晴らしい名前の持ち主だね!

太宰: そこに引っかかったか。薄暮の時間を守るのが武装探偵社だとしたら、夜を司るのが ポートマフィア。芥川くんは、その構成員だよ。立場は違えど同じヨコハマを守る組織だ。……けど、其処に居る、馬鹿の一つ覚えみたいに帽子を被った蛞蝓みたいな男がね。如何にも相容れない。はっきり云うと二度と会いたくないな。

センセー: 君がそれ程に嫌悪するとは、むしろ興味をそそられてしまうな。僕も昔「青鯖が空に浮かんだような顔」とある男に罵倒され、極めて不快な想いをしたことがあるよ……その彼も帽子を被っていたな……。

太宰: そんな帽子の男が2人も存在しているなんて、この世は正に地獄だ。

センセー: そのようだね。……ふふ、まったく死にたくなるね。3人目が現れないことを祈るよ。

太宰: ところで……先刻から気になっていたのだけれど、君の頭をかじっている不思議な生き物はなんだい?

センセー: ん……? あぁ、メロスのことかい? アネット君の使い魔だそうだが、ご主人様より僕の方に懐いてしまってね。そういえば、僕がウォーデリア君という龍を連れた少女に胸を刺されたときは、その小さな体で賢明に僕を診療所まで運んだらしいのだが……全く! 余計なことをしてくれたものだよ!! あのときこそ、ようやく死ねると思ったのに……。

太宰: センセーはいつも死に損なっているんだね。同情するよ。私もいろんな自殺方法を試しては、シュッパイばかりだ。本当に探偵社にはおせっかいが多くてかなわない。

センセー: もう少し取材を続けさせてもらうよ。武装探偵社は、これまでにどんな面白い事件を解決してきたんだい?

太宰: おやおや、いつのまにか筆記具を握っているね。面白いかはわからないけれど、外国とつくにから異能力組織がヨコハマを焼き払いに来たり、ヨコハマが霧に包まれたり……こうして考えてみると結構大変な事件が多いなぁ。

センセー: どうも僕の知ってる「横浜」とは違う街のようだ、それこそまるで異世界じゃないか。

太宰: 治安が良いとは云えない、と云っただろう?ほんとうは私、不発弾の処理とか、男女の喧嘩の仲裁とか、猫さがしとかをしてみたいのだよね。猫さがし、楽しそうじゃない? 人喰い虎は探したけどさ。

センセー: ……君は、話していることと、そのとき頭の中で考えていることがまったく違うのではないかと思わせる節があるね。

太宰: そう? センセーは面白いことを云うね。

センセー: 最後にもう一ついいかね?僕の生きる意味はさっちゃんにあるが、君は〝そこ〟で何をすべきだと思っているんだい?

太宰: ……人を救う仕事をすること。

センセー: 救う……。……ふふ。なるほど。実に興味深い。ありがとう。・・・おや? 何者かが僕の着物を引っ張って……何だ、メロスか。……痛い痛い痛い。 頭をかじるのをやめなさい。ああ、わかった、わかったよ。

太宰: どうしたいんだい?

センセー: ・・・ふふ。残念ながら 時間のようだね。そろそろアネット君が僕を迎えに来るらしい。


次週へ続く



アニメ『異世界失格』公式サイト

https://isekaishikkaku.com/

隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。

いくばくもなく官を退いた後は、故山、虢略に帰臥し、人と交を絶って、ひたすら詩作に耽った。

下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺そうとしたのである。

しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に駆られて来た。

この頃からその容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに炯々として、曾て進士に登第した頃の豊頬の美少年の俤は、何処に求めようもない。

数年の後、貧窮に堪えず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。一方、これは、己の詩業に半ば絶望したためでもある。

曾ての同輩は既に遥か高位に進み、彼が昔、鈍物として歯牙にもかけなかったその連中の下命を拝さねばならぬことが、往年の儁才李徴の自尊心を如何に傷けたかは、想像に難くない。

彼は怏々として楽しまず、狂悖の性は愈々抑え難くなった。一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿った時、遂に発狂した。

或夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駈出した。

彼は二度と戻って来なかった。附近の山野を捜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなったかを知る者は、誰もなかった。

翌年、監察御史、陳郡の袁傪という者、勅命を奉じて嶺南に使し、途に商於の地に宿った。

次の朝未だ暗い中に出発しようとしたところ、駅吏が言うことに、これから先の道に人喰虎が出る故、旅人は白昼でなければ、通れない。

今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでしょうと。袁傪は、しかし、供廻りの多勢なのを恃み、駅吏の言葉を斥けて、出発した。

残月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、果して一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。

虎は、あわや袁傪に躍りかかるかと見えたが、忽ち身を飜して、元の叢に隠れた。

叢の中から人間の声で「あぶないところだった」と繰返し呟くのが聞えた。

その声に袁傪は聞き憶えがあった。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ。

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」袁傪は李徴と同年に進士の第に登り、友人の少かった李徴にとっては、最も親しい友であった。

温和な袁傪の性格が、峻峭な李徴の性情と衝突しなかったためであろう。

叢の中からは、暫く返辞が無かった。しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。

ややあって、低い声が答えた。「如何にも自分は隴西の李徴である」と。

袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懐かしげに久闊を叙した。

そして、何故叢から出て来ないのかと問うた。李徴の声が答えて言う。自分は今や異類の身となっている。

どうして、おめおめと故人の前にあさましい姿をさらせようか。

かつ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決っているからだ。

しかし、今、図らずも故人に遇うことを得て、愧赧の念をも忘れる程に懐かしい。

どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜悪な今の外形を厭わず、曾て君の友李徴であったこの自分と話を交してくれないだろうか。

後で考えれば不思議だったが、その時、袁傪は、この超自然の怪異を、実に素直に受容れて、少しも怪もうとしなかった。

彼は部下に命じて行列の進行を停め、自分は叢の傍に立って、見えざる声と対談した。

都の噂、旧友の消息、袁傪が現在の地位、それに対する李徴の祝辞。